税理士法人大樹さま 会計事務所
相続税シミュレーションの情報収集、二期比較のWebアプリ、決算書と会計データの突合。
いずれも「人の手と目で積み上げてきた業務」を、機械が得意な形に置き換える取り組みです。
全3回の研修が生んだのは、受講された皆様から「こんなAIを作りたい」という提案が出てくる状態でした。会社として目指されているのは、AIを使える人を増やすことではなく、AIに任せられる組織をつくることです。
背景|「何ができるか」を知るところから始まりました
2026年4月から7月にかけて、全3回のChatGPT活用による業務効率化研修を対面で実施し、4名の皆様が受講されました。
社内には、システムエンジニアとしてAI活用を主導されている方がいらっしゃいます。研修の前からアプリ開発やシステム開発をAIとともに進められており、社内のAI推進リーダーとしての役割を担われています。
一方で、受講された皆様にとっては「AIで何ができるのか」がまだ具体的に見えていない段階でした。相続税のシミュレーションも、申告書のチェックも、これまでは人の手と目で一つひとつ積み上げてこられた業務です。
会社として選ばれているのはCopilotです。ExcelやPowerPoint、Wordを開いたときに、そこにCopilotがいる。その状態を全員に覚えていただくことが、最初の一歩として置かれていました。
「当社は会計事務所なので、まずExcelやPowerPoint、Wordを開いたときにCopilotがそこにいるということを覚えてほしい」
変化|「調べる時間」と「作る時間」が入れ替わりました
相続税シミュレーションの情報収集
相続税のシミュレーションは、依頼者からデータを受け取り、専用ツールに情報を入力して動かす業務です。ただし、その入力に必要な情報は一箇所にまとまっていません。土地を評価するための路線価をはじめ、適用される条件を一つずつ調べる必要があり、ここに時間がかかっていました。
この「調べて集める」工程を、AIが担えるようになりました。
「データをもらって『やって』と言えば、入力用のExcelに、こういう内容で入力してはどうですかという提案が出てくるところまで来ています」
さらに、顧客ごとに専用のツールを用意し、必要な情報を入力して一時保存するところまでを進められる状態になっています。これまで人が探し、転記していた部分が、そのまま提案として返ってくる形に変わりました。
二期比較のWebアプリ
会計の入力業務では、今期と前期の数字を比較する場面があります。ところが、決算月を変更されたお客様の場合、会計ソフトの機能だけでは二期比較ができません。短い期間と通常の期間を合算して比較できる形に整える必要があり、この作業は手作業で続けられてきました。
相談を受けたその場でAIに指示を出し、二期比較専用のWebアプリを作られました。
「午前中に相談があって、午後にはもう出てくるというレベルです」
使った本人から「ここをこうしてほしい」という意見をもらい、修正した版は翌日には出てきます。そのままお客様との面談でも使うことができました。
決算書と会計データの全突合
法人の申告書を作る業務は、事務所にとって負荷の大きい仕事です。ここには、明確な突破口が見えています。
申告書に載る数値は、すべて会計データから持ってきているものです。であれば、両者を突き合わせれば、食い違っている箇所は必ず分かるはずだという考え方です。
「機械的にやれば早い話なので」
人が目視で照合してきた工程を、そのまま機械の仕事として切り出す。AIが最も力を発揮する領域に業務を寄せていく発想です。
受講された皆様の変化
受講された皆様については、実務での本格運用はこれからの段階です。それでも、研修の前と後では明確な違いが生まれています。
「何ができるか分からなかったのが、AIでこういうことができると分かった。『こんなAIを作りたい』という話をするようになってきました」
自分の業務を見て「ここは任せられるのではないか」と考え、提案として口に出せるようになる。AI活用の出発点となる変化が、社内に生まれています。現在は、受講された方々のさらに外側、パートで働かれている方々にも利用が広がりはじめています。
受講後に挙がっているテーマは、いずれも日々の業務に直結するものです。
| 取り組みたいテーマ | 内容 |
|---|---|
| 通話内容の記録 | 打ち合わせの文字起こしを、自動で社内システムに取り込む |
| 入金の照合 | 内容が特定できない入金を照合する |
| 顧客情報の検索 | 顧客一覧から必要な情報を探し出す |
| 資料の在りかの案内 | 社内に蓄積した情報から「その資料はここにあります」と返す |
意識の変化|「AIを使える人」から「AIに任せられる組織」へ
1. 「何ができるか分からない」から「こういうことができそう」へ
研修で最も大きかったのは、できることの範囲が見えたことです。範囲が見えれば、自分の業務と照らし合わせて考えられるようになります。説明を受ける側だった皆様から、提案が出てくるようになりました。
2. AIは「特別なもの」ではなく「いつもそこにあるもの」へ
第一段階として置かれたのは、機能を一つずつ説明することではありませんでした。
「ステップ1は、パソコンのテンキーと同じぐらいのレベルで、まず使ってもらうことです。気づいたら開いていましたぐらいになってもらわないと」
一つひとつ説明していてはきりがない。だからこそ、まず触れる回数を増やす。Copilotが選ばれている理由も、日々開くExcelやWordの中にいるからです。この第一段階は、すでに達成されています。
3. プロンプトを「書く」から「書かせる」へ
次の段階として見据えられているのは、指示の出し方そのものをAIに任せることです。
「プロンプトを自分たちで書いているうちは、まだですね。Copilotに相談して、Copilotに書かせればいいのに」
使う人が文章表現に悩む必要がなくなれば、AIを使える人の範囲はさらに広がります。
4. 「作れる人」が増えることに価値があります
現在、社内のアプリ開発は一人で担われています。今後、社内から「こういうアプリが欲しい」という要望が増えたとき、一人ですべてに応えることはできません。だからこそ、最終的に目指されているのは「作り方を教える」段階です。時間の削減だけでなく、一人に集中している役割を分散させることが、その先に置かれています。
今後の展望
第2段階 ── 作ったアプリを、実務で回す
現在進められているのは、開発されたアプリを実際に社内で回しながら、意見を集めていく段階です。これから3か月から半年ほどをかけて、AIで作った仕組みを業務に特化させると何が起きるのかを、社内に見せていく計画です。
下地はすでに整っている ── データがつながる状態
大樹様の場合、データ連携の土台は導入の時点から準備されています。システムを選ぶ段階で、APIが使えるか、CSVでデータを出し入れできるかを基準にされてきたためです。力技でしか連携できない仕組みは、すでに入れ替えを済まされています。
「データをつなげること自体は、手動ではもうできる状態です。ここから先の自動化をどうやるか、というところです」
残る課題 ── AIをどこまで信用するか
タスク管理、スケジュール、日報といった社内の情報をデータベースでつなぎ、人は要所だけを確認すれば回る。その全体像は、すでに描かれています。実現を左右するのは、技術ではなく信頼の側にあります。
AIに任せた結果を、念のためもう一度すべて確認してしまう。確認の工程が重なると、かかる時間は元と変わらなくなってしまいます。
「もっとAIを信用できるようにしていかないといけない、というのが今の課題です」
任せる範囲をどこまで広げられるか。確認をどこに絞るか。この問いは、AI活用を進めるすべての企業様が通る地点でもあります。大樹様は、その入り口にすでに立たれています。